2013年2月20日水曜日

入力ミスの防止の目的は?

主な登場人物

葉山:「課長。よろしいでしょうか?」
片岡:「ん? 葉山君、なにかな?」
葉山:「設備課の石井さんという方の勤怠についてですが」
片岡:「態度が悪いって?」
葉山:「パチンコの話ばかりするという苦情が……いえ、そうではなく」
片岡:「うん、そこも問題だと思うんだが」
葉山:「そうですけど、財務からの苦情なんです」
片岡:「財務? 接点は無いと思うが、いったいどういう?」
葉山:「入力している数値にミスがあるから、何とかしてほしいと」
片岡:「ミス? だが、ミスがあると自動的に数値を入力することができないようになっているんじゃないのか?」
葉山:「どうやら、残業日(8時間以上労働)の休憩時間が45分になっている点を修正してほしいという要望の様です」
片岡:「8時間以上労働する場合は1時間の休憩が必要だからなぁ。昼休みが45分で通常勤務時間が7時間50分の当社としては、15分超過で8時間を超えてしまうから、15分どこかで休憩を入れないと、財務としては困るだろうな」
葉山:「はい、そこ問題にしているようです」
片岡:「それで、相談というのは?」
葉山:「財務の方や所属長から修正するように指示が出ているのですが、本人は聞かない様で」
片岡:「所属長が行っても聞かないのをどうしてこっちに?」
葉山:「どうやら、石井さんの反論に所属長が納得してしまったのが問題の様で……」
片岡:「手におえないから、こっちに相談という言い方をした説得をしろと?」
葉山:「はい、そうみたいです」
片岡:「いったい、何を説得しろというんだろうね」


片岡:「石井君、ちょっといいかな?」
石井:「これは片岡課長。どうしました?」
片岡:「いや、財務から君を説得しろと言われたんだが、、、」
石井:「財務からですか?どうして石井課長が……」
片岡:「直接指示命令権がないからだな。なんでも勤怠入力で、石井君の入力に問題があるようなんだ」
石井:「ああ、それですか。ですが課長はなっとくされましたよ」
片岡:「確認したんだが、納得という感じではなく、言質を取られるのが嫌だったみたいだ」
石井:「どうして?」
片岡:「君は勤怠入力において、自らが働いた本当の実績を入力したんだそうだが、間違いないか?」
石井:「はい、間違いありません」
片岡:「労基上、15分の休憩を取らなければならないんだが、それを取っていないのは本当なのか?」
石井:「はい、本当です」
片岡:「今はどうしているんだ?」
石井:「いまも、取っている場合は記載しますが、取っていない場合はそのままですね。課長からはできるだけ取るようにとは言われていますが、それは仕事の進捗次第ですし」
片岡:「なるほどな」
石井:「もしかして、財務はまだ虚偽の報告をしろと指示を出してきているんですか?」
片岡:「ありていに言えばそうだ」
石井:「私としては、そういう指示を受ければそうやりますよ」
片岡:「君のところの課長は、その指示を出すのを嫌がったんだよ。君に自主的に虚偽報告してもらいたがっているようだ」
石井:「その件では財務と直接話しましたよ。そういうことであれば、直接うその報告をしろと指示を出してくださいと。」
片岡:「財務にしろ、課長にしろ、そういった指示は出せないだろうね」
石井:「私の勤怠報告のままでは、労基署から指導が来るから、指導が来ないように情報を隠ぺいしろということで理解しているのですが」
片岡:「始まりはそうだろうね」
石井:「でもそれっておかしいですよね? 当社はISOも取得していますし「コンプライアンスを順守する」という方針を社長が宣言されています。私としては、社長の方針に従っているのですが、なぜ課長や財務はあのようなことを言うのでしょう?」
片岡:「石井君はわかっていて言っているみたいだね」
石井:「当然です、課長も財務も[指示を出す]ということをしたくない。何かあった時、自分たちが不利になるから。そういう逃げをしないで下さいと求めているだけです」
片岡:「私も課長職だから、君のように言ってこられると困るわけだが。もちろん、困ると思う状況が間違っているのは理解している。だがな……」
石井:「もし、問題として認識しているのであれば、組織内における不適合として、現状の勤務方法の改善を行うのは筋でしょう?」
片岡:「なるほど、それはそうだ」
石井:「工数管理ができていれば、そもそも残業ができないように業務調整を行う。課長はきちんと指示を行うのが仕事でしょう?」
片岡:「そりゃそうだ。だが、人は完璧じゃないわけで」
石井:「完ぺきを求めてはいませんよ。ですが、違法なことをやれと暗黙するのは筋違いでしょう?」
片岡:「入力する勤務終了時間を休憩15分加味した形で残業時間として計上……」
石井:「そりゃおかしいでしょう。実績を書くなと言っているわけですよ」
片岡:「だが、残業代として」
石井:「残業をするなと課長からは支持が出ていますよ。残業にならないように業務時間を調整しろと」
片岡:「なら、残業している石井君が悪いことにならないか?」
石井:「ええ、私は悪いんですよ。仕事の要領が悪くて。ですが、それはそれ、これはこれでしょう? それに、どんなに要領よくしたって仕事の工数配分というものがあります。ですから、労安法でも残業を命令することができるようになっているじゃないですか。違いますか」
片岡:「違わないな」
石井:「残業が発生した場合、どこに問題があったのか、力量の問題なのか、工数配分の問題なのか、きちんと原因を分析する。残業は一般的に発生するから、それは不適合ではない。という認識でいるから駄目なんじゃないですか? 財務としての原因分析、課としての原因分析は必要でしょう。もちろん、残業が発生したのは工数配分と納期の問題で、せざるを得なかったから実施したという形ですよ」
片岡:「とはいえ、財務にとって迷惑がかかるわけだから」
石井:「財務と課長に迷惑がかかるから、嘘を吐けと? お前が法令違反を犯せば、俺たちは幸せになるんだ。みたいなことを言わないで下さいよ」
片岡:「とはいえ、このままじゃらちが明かないし、人事評価にも悪影響が出るぞ」
石井:「もし、今回の件で人事評価に影響が出れば、それは明らかなパワハラでしょう」
片岡:「そうはいうが、世の中ガチガチじゃ回らないわけだから、どちらかが折れるしかないだろ」
石井:「財務が折れればいいんじゃないですか? そうすれば方針違反をせずに済みます」
片岡:「会社として行政指導を受けるというのもどうかと思うんだが」
石井:「それは変でしょう。どうも、ここまで来ると、電子申請化したのは『法令違反を見つけて是正する』のが目的じゃなく『法令違反の指導を受けないために根回しするために』導入したように思えますね」
片岡:「『業務改善のために』導入したに決まっているじゃないか」
石井:「『社員に違法行為をさせて会社が違法なことをしていない状況を作り出すため』でしょう。社員による直接入力ですから『自己責任化』しているわけですから、社員本人に任せればいいじゃないですか」
片岡:「『自己責任じゃおえないから、業務命令という形で指示しろ』と、君は言うわけだな」
石井:「その通りです」
片岡:「わかった。なにかあれば、財務から君に指示したと私が証言しよう。これでいいか?」
石井:「直接指示を受けてはいないんですが」
片岡:「財務から君に説得の依頼が来ている時点で、同じことだよ」
石井:「わかりました」




片岡:「ふぅ・・・・・・」
マサ:「片岡課長。お疲れですか?」
片岡:「ああ、石井君の説得に手間取ってしまって?」
マサ:「石井さん?」
片岡:「ああ、かくかくしかじかで」
マサ:「なるほど。石井さんの言い分が間違っているとは思いませんが……」
片岡:「正論なだけに説得は無理だったよ」
マサ:「時には曲がることも必要ですからね」
片岡:「とはいえ、今回の件は彼だけに文句を言うこともできまい。課長や財務がきちんと指示すれば済む話だった」
マサ:「影響力が違いますからね。財務の課員レベルであれば、指示したんじゃないですか?」
片岡:「どういうことだ?」
マサ:「行政もそうですが、廃掃法を例に挙げれば、問い合わせ先が市町村レベルの場合、一般廃棄物を産業廃棄物として処理するように指示をするケースがあります」
片岡:「それは、廃掃法違反じゃないのか?」
マサ:「ええ、そうです。私も何度もありますが、行政が違法を行うように指示をするケースは多々あります。口頭でですが」
片岡:「ばれたらまずいんじゃないか?」
マサ:「手のひらを返すでしょうが、基本は黙認状態ですね」
片岡:「しかしなぜ、行政はそのような指示を?」
マサ:「一般廃棄物は市町村レベルで処理が基本です。ですから、市町村における廃棄物の処理状況の現実を知っている為、処理能力の上限を超える廃棄物の処理を行うことができないんですよ」
片岡:「能力不足だから、違法もやむを得ないと」
マサ:「はい。ですが、これが県レベルになると、市町村の廃棄物の処理能力の実情を理解できなくなります」
片岡:「こまけぇ話なんて聞きたくないだろうからな」
マサ:「まぁ、そうですが、市町村に対して下手にしぞを出そうものなら、現実的に発生している問題の解決方法を提示する義務が発生するんですよ」
片岡:「ほうほう」
マサ:「で、その問題の解決方法は、大体が金を莫大に掛けなければ解決しないのが一般的です」
片岡:「処理場を新しく作るとなると、何百億という金がひつようになるからな」
マサ:「半額は国による負担ですが……場合によっては、一般廃棄物を処理可能な市町村に運び入れて処理してもらうという特例措置を取るケースもあります。相模原が一部の事業者に対してそのような措置を取っていると記憶していますね」
片岡:「受け入れ先との調整もあるんじゃないのか?」
マサ:「当然ありますから、県知事が仲介役となって輜重同士の同意書が交わされるのが通例の様です。で、その調整ってのはかなりしんどくて………」
片岡:「県の職員としては、めんどくさいから市町村に問い合わせろと指示するんだな」
マサ:「御明察です」
片岡:「やれやれ、みんな後ろ向きだなぁ」
マサ:「原発事故もそうですが、日本社会は神話型が基本ですから」
片岡:「安全神話という奴か」
マサ:「ISOでは緊急事態に対して緩和措置といった形で「事故は起こる物」という考え方ですが、日本は「事故は起こさないもの」という風土ですからね。目の前の問題に対して、問題が無いように見せかけるので、実のところ中国や韓国のことを笑えないんですよ」
片岡:「たしかにな。よくよく見ると、いろんなところで隠ぺいしていることがわかるよ」
マサ:「問題と向き合うのが苦手なんでしょうね」
片岡:「そうもいっていられないとは思うときもあるはずなんだが」
マサ:「今回のケースは勤怠の電子化でしたよね?」
片岡:「ああ」
マサ:「ソフトウェアには限らないのですが、システムはシステムを作った人間の思惑が反映されるように作られます」
片岡:「どういうことだ?」
マサ:「勤怠の電子化で、従来のシステムから操作性、利便性は上がっていません。入力項目は前よりも増えています。これは、システムを導入した側、つまり財務の担当者が『楽をしたい』『入力チェックの手間を省きたい』という思惑の元に導入されたのが見えてきます」
片岡:「たしかに、色々めんどくさいな」
マサ:「これが、従来勤怠入力をしている人間の入力時間の削減を思惑としているのであれば、操作性や利便性が従来より向上し、入力する項目も減っていなければなりません」
片岡:「真逆だな」
マサ:「難易度が上がるということは、操作方法について、入力項目についてなどの指導を職員に施さねばなりません。これに掛かる人件費や工数まで見れば、財務の担当者一人か二人に指導工数をかけた方が『工数として安上がり』なのは明白ですね」
片岡:「安上がると思うのは?」
マサ:「今回、新規に業務指導を行った時間は一時間半に及びます。全職員数が500人ですあら、工数として受講側で750時間かかっているわけです。指導側の出張費などを考えてみてくださいね。次に、従来の場合はソフトウェアの操作を二人に教える時間が指導側を含めて三人。三日間の研修でも工数としては7×3×3人=62で済みます」
片岡:「だが、恒久的に財務の工数はその分減ったわけだろう?」
マサ:「今回の導入にあたって、財務の人間の所属数は減っていません。人一人に掛かる年間の人件費が減らないのであれば、工数として約680分の損失です。また、ソフトウェアも無料ではありませんので、そのイニシャルコストと導入にあたった工数分が赤字です。さらにソフトも維持費がかかりますから………会社として、そこをどう評価したか? という問題もあります」
片岡:「恩恵を受けたのは財務だけと?」
マサ:「職員に違法なことをやらせているんですから、会社としては労基署からの指導というリスクがなくなった部分は恩恵を受けているでしょう。そのかわり、内部告発という新たなリスクを抱えましたが」
片岡:「そういう風に聞くと、入力ミスの防止は隠蔽のためにという気がするな」
マサ:「入力ミスではない、と、認識する必要があります。ですが、財務は入力ミスとして処理したんでしょう」
片岡:「電子入力の出発点からミスというわけか」
マサ:「なんでも電子化すればよい。というわけではない。といういい教訓にはなったんじゃないですか?」

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