2014年5月5日月曜日

定期的な点検

「柾、今年度のISOの内部監査なんだけどな」

「はい、それがなにか?」

「昨年みたいな監査じゃ、また現場からクレームがつくのが目に見えてるんだよな。何とかならないのか?」

「あれですか? 相田が書籍のチェック項目を丸写しにして監査員に配った件」

「そうそう。それだよ。俺が回答を用意しておけって言っても、答えるのは現場なんだから不要って突っ返してきたアレ」

「アレでは回答が正解かどうかすら、監査員側には判断できなかったでしょうから、その指示は正しかったと思いますよ」

「しまいには、相田本人が質問の意図を被監査側から質問されて答えられなかったというオチまでついたしな」

「本来の監査は適合性をみるのですから、適合しているかどうか? とチェックする為のものです。何を以て『適合している』と判断するかは、監査側に委ねられますが、その『適合している』と判断する指標をどうするか、明確に自分の中で答えが無いと、監査する意味がないでしょうね」



「ISOの審査員なんかは、そのあたりは全部『記録』に依存しているな。まぁ、自分なりに指標を持っている分、ISOの内部監査員よりマシなのかもしれないが、、、」

「それで、その監査がなにか?」

「ああ、相田の奴がな。その監査の頻度を上げようとかいい出しててな」

「は? ただでさえ意味のない監査の頻度を上げる?」

「ああいうの、本来は経営層が必要とした場合にやればいいと思うんだが、、、相田の奴、定期的にやるってISOで要求されているし、規定に書いてあるからって主張する。それに、内部監査をやればやるほど組織は良くなると主張してな」

「監査で改善点が見つかればいいですが、只でさえ他部門の業務、専門外の業務ですから、改善点が発見できるなんてのは、宝くじを当てるのと一緒ですよ。回数こなせばいいってものでもないと思いますよ」

「それは俺も思うんだが、確率が0じゃないから、奴の主張を完全に否定することも出来なくてな」

監査一つとっても、コストがかかりますからね。あいつがそんなあほなことを言い出したら、『頻度を上げるってことは、その分発生するコストに見合う効果を上げれるのか?』と切り返したらいいんじゃないですか?」

「最近、奴はコストの話を持ち出すと、『そう言う物じゃないでしょう』とか言い出すんだけど。組織を良くするとかなんとか」

「良くする、ってののベクトルが不明ですね。 『何を良くするのか?』ってのが、すっぽり抜けてるんじゃないですか? コスト的に改善されるか、安全のリスクが低減されるとか、具体的なことを求めてもいいかもしれません」

「いや、あいつの具体的な話は無駄だろ。理想ばかりで頭の中お花畑だし」

「それはさすがに言い過ぎだと思いますが、、、それで、回数を増やそうとのを潰せばいいと?」

「ああ、それもあるんだが、なんで定期的にやらなきゃならないんだ?

「う~ん、本来、ISOで要求されている定期的って奴の趣旨は、手段ではなく目的をはっきりさせておかないといけないんですよ。ISO的に言うと分かりにくいですが、別の言い方をすると、法令の設備の定期点検もそうです。点検することで『正常に動作する事を確認する』のが目的です。正常に機能すれば、事故は防げる。もちろん、『動作しないこと』も想定しておく必要があります。動作しないことはISO的に言うと『緊急事態の緩和』に該当しますね」

「ISOの内部監査は、組織規程通り運用されているかどうかの機能確認ってことか?」

「私はそう思っていますよ。だから、相田の主張するような『改善する』ってのは、目的じゃないでしょう。あいつの主張自体、根本的に間違っているというのが私の持論ですね」

「だよな。監査と改善は直接的に結びつかないし」

「点検を怠り、動作しないことも想定していなかった事例、、、最悪なケースが、先に韓国船の事故だと思ってます」

記事:「韓国船、救命いかだは使用不能 発覚恐れ待機指示か

「設備の定期点検を怠っていたと思われると? まぁ、やってなかったんだろうけど」

「かの国の場合、記録はあっても、記録が正しいかどうか?と言う部分もありますから、監査する場合はそれこそ『実測して記録の正しさを確認する』必要があるともいます」

「日本のISO監査のようなことをやってる場合、認証登録は信用ならんと?」

「はい、そのとおりです」

「何のために、認証登録するんだろうな?」

「何も保証しませんからね。審査員補を持つ人に三年毎に審査をしてもらって、OK報告書を貰うのと効果は変わりません」

「そっちの方が安そうだな」

「ええ、そうですね。とまぁ、定期的に監査(点検)をするの場合、明確な目的と指標及び想定されるリスクの特定、、ISO的に言えば「著しい環境側面」との関連性を結びつけられていないのであれば、毎年じゃなく三年毎でもいいと思いますよ」

「やらないって選択は?」

「う~ん、そこまで断言できないんですよね」

「なんで?」

「ソフトウェアも、OSがバージョンアップすると、機能確認ってのはありますよね? XPで動作したソフトが7や8やMacでは動かないという」

「ああ、よくあるな。ドライバの問題だっけ?」

「いえ、それだけではないんですが、、、まぁ、そういう風に、組織も内部の人間が人事異動で変動するわけですよ。なので、人が変わっても問題なくシステムが機能しているかどうか? は確認しなきゃいけないわけです」

「それで定期的ってことは」

「そのとおりです。ですのでまぁ、人の入れ替わりの激しさに合った形でやれば十分だと思ってます」

「人が変わらない場合は、やらなくていいと?」

「前はやってたけど、無精してやらなくなったとか、まぁ人間の頭の中身も常に変動しているので、定期的なシステムチェックは必要だと思いますよ。まぁ、位置づけ的には点検じゃなく、計測器の校正に近いですけどね。この場合は簡易的なセリフチェックで十分かもしれませんが」

「人間の校正ってことか。そう言われると、なんとなくわかるな」

「中の人の性質にもよりますが、監査でマイナーすら出なくなったら、その周期を伸ばしてもいいでしょうし、『貯気槽の開放周期の延長』のように部門に対して『監査の延長』のルールを定めてもいいと思いますよ」

「監査を延長とは斬新と言うか、聞いたことないな」

「『延長する』ってことは、延長するだけの評価と基準をクリアする必要があります。その時点で簡易的なセルフチェックもといセルフ監査が行われているわけですか、延長するだけの理由は明確です。なので問題ないでしょう」

「ISOの監査でなにかいわれないか?」

「セルフチェックの記録がある意味、簡易的な『内部監査の記録』ですので、驚かれはしても文句は言われないでしょう。問題になるのは『なにも評価されていない』そして『評価されたことを確認できないですから」

「確かに、その方法なら、監査の時間も短縮できるし回数も減らすことが出来るな」

「まぁ、聞いたことが無い、一般的でない、今までと違うっていうだけで、私のこの例(改善案)は受け入れられないでしょうけどね。特に相田は」

「確かに、新しいものを導入するってときは、なにがしらの反発は常にある。白熱球から蛍光灯に変わった時もそうだったし、パソコンが導入された時もそうだった。あのときは特に年寄が酷かった。内線導入も、要らないっていう奴もいたし、、、」

慣れた仕組みを変えるってことは、ストレスを生じますからね。今まで自分がやって来た常識が通用しなくなるってことは、年配者になればなるほど若い世代に対する自分のアドバンテージを失うわけですから、本能的に忌避するんじゃないっすか?」

「俺もお前も、もう年配者に位置づけられるぞ。そんなことを言っていいのか?」

「気持ちは分かりますからね。プログラムも、今の新しい言語に変えろと言われると、しんどいですから。とはいえ、受け入れるしかないと思います。Windows7から8になった時に、あのレイアウトや操作性の変更点で途惑いますが、結局のところ、それは受け入れなきゃいけないわけですし。若い世代でさえ、ワードやエクセルにツールバーの基本がリボンになった時の拒否感を感じてたんですから。どうしようもないことってのはあると思いますよ」

「内部監査というアプリケーションソフトも、仕様を変更すれば同じような拒否感を感じさせてしまうというわけか。個人の器が試されるわけだな」

「現場は喜ぶと思いますけどね。相田のように監査する側にとっては、受け入れ難いと思います。単純に仕事量が減りますし」

「会社にとって工数が減ることは良い事なんだが、、、、」

「内部監査はISO事務局にとって、『ISO監査』と同じく『年功行事』の一つなんですよ。それにメスを入れるわけですから、面白くないでしょうね。それに、仕事量が減った分、時間を余らせるわけですから」

「時間が余るのか。余った分だけ仕事をすればいいと思うんだが、、、おまえ、余った時間に何やってる? ネットサーフィンか?」

「使用しているソフトの改修とかやってますよ。業務の効率化を図っていると言ったらいいでしょうか。他には、設備を回って、現状の状態や図面との差異を確認して修正点を洗い出したり、現場の人間と談笑したりですかね」

「談笑?」

「ええ、仲良くなっておくと、仕事が楽ですから。頼み事もしやすいですし。それに、談笑の中で設備や備品の不具合の兆候とか、結構な頻度で出てきます。そこで発見したものに対して、設備改修計画を立てて見積もって上申、工事スケジュールの調整とか、そういう流れになりますね。単純な部品交換なら、自分でやっちゃうときもありますし、設備課、保全課の担当に連絡して対応してもらうケースもあります」

「定期的じゃないとしても、不定期な点検みたいなもんか」

「仰々しく飾った『内部監査』じゃ、何も発見できないってのが持論ですんで。実際、まともなものが発見された経験もありませんし」

「それはそれで問題だし、割と越権行為なんだが、、、まぁ、いい。ともかく、点検も監査も『明確な目的と評価基準を持って行われるかどうか』が重要と言うわけか」

「ええ、私はそう思います。まぁ、わたしの談笑は先に行ったことを目的とはしていませんが、、、、まぁ、結果的に抽出できるので継続しているだけです」

「そこは、結果良ければすべてよし、でやってるんだな」


「ええ、結果に勝るものはありませんし、、、話を戻しますと、定期的にやらなければならないかどうかは、その中で自然と発生するものだと思います。少なくとも、回数ありきで話すことに意味は無いかと」

「なほどな。 点検一つとっても、その意味を考えてやらないと意味がないってだな」

2 件のコメント:

  1. 某国で沈んだ船の点検表はまったく意味がなかったようですね。救命ボートの試験もしてなかったワケですし。
    「形」ではなく、実利が伴わない検査には何の意味もありません。

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    1. ですね。
      監査もパトロールも一種の「イベント化」してしまうと、もう全く意味がないと思っております。
      名古屋鶏様の言葉で言えば「形」になってしまっている、というやつでしょう。

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