「柾さん、相田さんがなんかまた騒いでますよ」
「もう、俺が環境の担当じゃないんだから、こっちに持ってくるなよ」
「相田さん担当でしょう?」
「老人介護する気はないんだけどなぁ。完全に相田のクレーム対応になってるじゃないか。それで、今度は何を騒いでいるんだ?」
「保全課や工事課といったところから出てくる産業廃棄物の分別について騒いでいるみたいです」
「産廃かぁ。ルールを作ったのは石井さんなんだけどな。久我山、お前と同じ設備課なんだから、そっちで面倒見ろよ」
「いやいや、その石井さんと相田さんがやりあったんですよ。で、石井さん激オコっす」
「石井さんも相田も自分の主張は曲げないからなぁ。とはいえ、今回は石井さんの方に筋がありそうだけど」
「わかるんですか?」
「現在の分別ルールに文句を言っているのは相田なんだろう? つまり、現状で特に現場からは文句は出ていなかったはずなんだ。それを変えるとなると、それは当然現場に負担がかかるわけだ。で、相田はその負担に見合うだけのメリットを提示していたか?」
「いえ、全然レベルが低いとか、これはここまで分別するのが当たり前だとかそういう主張です」
「やっぱりなぁ。産廃にしろ一般廃棄物にしろ整理整頓にしろ、分別ってのは『何に基づいて行うのか』という点と『なぜそれに基づかなければならないのか?』という点を明確にしないといけないんだよ」
「そうなんで?」
「当然だよね。じゃないと、何のために分別しているの?って話になる」
「それじゃ、石井さんの分別ルールにはそれがあるんで?」
「大枠の分類はマニフェストに基づいているはずだけど、基本的にはそれ以上ないね。だから相田と口論になってしまっているんだろう」
「そもそも石井さんの分類じゃダメなんですか?」
「相田はなんて主張、ていうかどの程度の分類を主張しているんだ?」
「なんでも、どのゴミがどこから出てきたのかわからないから、明確にすることというのとと、適当におかれているゴミをきちんと所定の場所に置かせるようにっていうみたいです」
「なるほどねぇ。石井さんの主張も相田の主張も気持ち的わからなくもないかな。俺は俺で分別についての思いというのもあるし」
「どっちも理があると?」
「石井さんの方は、俺のルールに文句を言うなっていうのと、現場がそれで回っているんだから何が問題だ? という点。相田の方は現状苦労している自分が楽になりたい、業者からの文句を受けているのも相田だから、相田としてはそういうのをなくしたいんだろう」
「相田さんの場合、クレーム対応っすか」
「本当の意味でのクレームじゃないだろうけど、相田一人苦労すれば済む話なら、現状のままでいいんじゃないか? って思うけどね」
「相田さんには聞かせられない話ですね」
「この件についてはどうとでも言えるんだけど、このままだと委員会や経営層への提起した時に叩き落されるのが目に見えてる」
「『こういうものだ』『こうした方がいい』じゃ、上の人たちには通用しませんからねぇ。柾さんなら、どうしますか?」
「提起内容を通すならいくらでもどうとでも言えるし、通さないなら通さないでいくらでも、同とでも叩き潰せるかな。相田の主張の分別ってのは単純に混合廃棄物をなくそうっていう趣旨だろうから」
「その場合、何が問題になるんでしょうか?」
「そこまできちんと分析できているなら、石井さんと口論なんかにはなりはしないさ。それに、原因の特定と分析が完了しているなら、それは即ち不適合として起草案を環境管理責任者に提出しなきゃな。システム上のルールでそうなっているし、そうなると石井さんに話す問題でもない」
「やってることがちぐはぐであると?」
「議論するならするで、関係者を集めて議論しなきゃな」
「なるほどねぇ。ちなみに、柾さんはその辺はどう思っているので?」
「問題があるかどうかってこと?」
「はい。それに、通す場合と叩き潰す場合にどう展開させるのかな?と」
「問題の方ねぇ……あると主張する場合は、現場から出てくる薬品関係で混油とかそういう混ぜて出されるのはまずい。そういうことがないように教育する必要はあるだろうね。とはいえ、そういう話は最近聞かないから大丈夫だとは思う」
「それは何が問題なんですか?」
「廃棄物を出すとき、廃棄物安全性データシートってのを作るんだけど、廃棄物の内容が混在すると変質してしまうため、意味不明になってこれが作れない。作るためにいったん分析をかけなきゃいけない。不明品のまま排出してしまうと、法令違反もそうだけど安全上のリスク、この場合は処分業者の作業安全に問題が発生する可能性がある。焼却処理中に変なガスが出たり、危ない物質が排水として水域に流出したりと。そうなった場合、事故の原因となったブツの排出元を調べられるし、そうなってしまったら当然排出者責任を問われる。損失補償するだけの体力は無い。分析は手間だけど、分析費が安すぎると思わせられるだけの損失額が発生する。まぁ、そういう手間やら何やらを掛けないために予防と言う意味でも混ぜちゃダメなんだよ」
「『混ぜるな、危険』っていうやつですね。相田さんはそのリスクを特定するために、分別しろと?」
「現場からの出し方の問題だから、分別云々まで発展するような話としては弱いね。分別ってのは集積箇所のふるい分けなわけだし」
「上も『周知徹底しろ』で終わりそうですもんね」
「分類するにもスペースがないとできないからね。相田の主張の弱いところはそこなんだよ。で、結局のところ石井さんのルールでみんな慣れているんだから問題ないだろってなる」
「叩き潰す場合の主張としてはそれで押す感じですか」
「さらに追い打ちをかければ、各部門での作業内容を把握していない相田に根本的な問題があるといえるよ」
「根本的っすか?」
「現場で何をやっているか、どういう作業をやっているか、どういう廃棄物が発生するか? そもそも環境側面の抽出やら著しい環境側面の決定の流れで、それらは事務局は把握しておかなきゃいけない。現場で使用される薬品についても同様で、当然そこに潜む環境リスクは特定済み。なら、そこから排出されるものは特定済みなんだから、現場からの廃棄物の出し方がさっき言ったような混在のケースを除けば、リスクは特定済みってなる。でも実体として相田は現場が何をやっているかわかっていない。だから、どういったものが何処からどういう出方をするかわからない。だから、分別をしっかりしてほしいという流れなんだろう」
「事務局としてやるべきことをやっていれば問題ないと?」
「やるべきことができていれば問題ない、、かな」
「その主張を覆す事ってできるんですか? つまり、相田さんの主張を通す場合なんですけど」
「分別させることを目的とした場合は難しいだろうね。でも廃棄物の分別って、手段であって目的じゃないからね。その目的をしっかり定めてやれば、そう難しい話じゃないよ」
「それは理屈ですよね? 具体的にはどうするんですか?」
「簡単だよ。コストの話をすればいい。分別することで産廃費用を安くすることができると主張し、具体的にどれだけ費用の削減になるのか数値を出してやれば、経営陣としては否とは言えないだろう。まぁ、その削減コストが微々たるものなら、分別のために発生する労務コストの方がかさむという話になって厳しかろうが」
「まぁ、100万の処理費が99万になる。その一万の為に~っていうのは馬鹿らしいですね。とはいえ、相田さんからはコストの話は出ませんでしたよ」
「1%削減のための労力コストの計算は本来重要なんだけど、環境ISOや省エネ法の世界じゃ不思議と議論されない。ほんと、なんでかな?って思う。 話を廃棄物に戻すと、コストの話をする前に本当は収集運搬業者や処分業者とのヒアリングや聞き取り、現場の確認なんかも十分する必要があるんだよ」
「なんでそんなにめんどくさいことを?」
「排出元がきっちり分別しているなんて稀でね。処分業者は単価に分別費用を加算してて、分別して出しても費用の単価を下げないケースがあるからさ。その場合、どれだけきっちり分別しても、費用の削減にはつながらない」
「そんなことあるんですか? ちょっと信じられないんですけど」
「大きな企業体の場合は違うケースもあるよ。一般に表に出していない『専用の単価』ってのを用意されてて、その企業から産廃処理する場合はその単価で仕事をするっていう」
「初耳ですね」
「俺も産廃業者からはそういったことを聞いたことはないよ。でも、以前、大@ハウスの工事責任者と一緒に作業をする機会があったんだけど、えらく産廃を細かく分別してたんだ。で、話を聞いてみると産廃費用のコストに大きく影響があるからやってるんだと。で、さらに話を聞くと分別をしっかりする前提で業者と契約を結んでいるんだそうだ」
「なるほど。でもそういうケースなら納得ですよ。大手なら大量に産廃が出るでしょうから、処分場の人間がそこから分別なんてしてたら手が足りません。多少単価を安くしてもしっかり分別して出してほしいと思うのが本音じゃないですかね」
「そういう思惑もあるだろうね。でも、手が空いている内は仕事としても欲しいわけさ。職員遊ばせても給料払わなきゃいけないわけだし」
「で、しっかり分別してくる排出元に対しては、、、」
「ありがとうございます、だろうな」
「請負側としても、わざわざ高く処理費をだしてくれるわけで、不利になるような話はしないでしょうからね。納得です」
「よほど大量に発生するとか、仲が良いとか、あとは地域特性とか有力者とか、そういう事情があるなら教えてくれるかもしれないけど。真面目に分別費を請求して単価に上乗せしていない業者もある。処分場は横のつながりが強いから、力関係で対立していない限りは、基本的にやり方は横並びかな」
「そこだけ別のやり方をすると恨まれるってわけですか。嫌な世界ですね、、、、、。それで、相田さんが分別の話を出すのであれば、事前にそういう情報をしっかり仕入れて、処分場と折衝して見込みがあるかどうかを調べろってことですか?」
「その通り。特に産廃業者なんてヤクザでいい加減だしな。絶対に『だろう』という思い込みでやっちゃいけないんだよ。やるならやるで、根回しはしっかりしておかないと、いつの間にか行方不明ってなってもおかしくない」
「まぁ、産廃の処分場ですから、死体の処理も簡単でしょうしね」
「怖い世界だよ。で、さらにいえば、分別のルールってのも結局『どういう出し方をすれば安くなるか?』ってのは、業者ごとにカラーがあるわけで、マニフェストの項目別に分別すればいいってわけですらない」
「カラーっすか?」
「処分場ごとに処理の得意不得意があるんだよ。ガラスは得意だがコンクリートは苦手とか、鉄筋入っているのは勘弁とか。廃油や廃酸だって、潤滑油はOKだけど、廃試薬はNGとか、それらが保存されている容器は一斗缶とかドラム缶といった鉄関係ならOKだけど、プラ容器は苦手とか。苦手なものは外に出すんで単価が高くなるとかもあるし」
「そういう場合はどうするんですか?」
「最初から得意な業者に持って行ってもらうとかするかな。なんで、分別するなら受け入れ可能な処分場の品目に合わせた方が、収集運搬費は安く済ませることができる」
「その方が、二度手間、三度手間にならなくて済むでしょうね」
「一回当たりの運搬量もギリギリまで載せて持って行ってもらう方が安く済むしな。まぁ、分別ルールを押すなら、そういったコスト的な部分をきちんと計算して提案かな。得意不得意に合わせて細分分別して排出する分に関しては、業者への根回しは要らんだろう。わりかし簡単に試算額は出せるだろうな」
「相田さん、石井さんにそういうコスト面の話はなかったっすよ」
「コスト面の話を出せば、石井さんだって話に耳を傾けただろうに。とはいえ、コストの件はそう簡単ではないけどな。業者の反応を伺いながら進めた方がいい話ではある」
「そこまで慎重にならないといけないんですか?」
「コストが削減できるってのは、削減できた分だけ関連業者の損失に繋がる。相手の会社の経営がカツカツだと、やらない方がいい」
「それは相手側の責任なんじゃ?」
「それはそうだが、それでつぶれたら、新しく開拓しなきゃいけない。その新しい開拓先が、今より安いっていう保証はない。逆に高くなる可能性もなきにしもあらず」
「う、それは本末転倒ですね」
「それなりに大きいところならいいけど、小さいところの場合、初代の経営者が生きているうちはいいが、二代目が初代の息子で経営を引き継いでいるところなんかは、、、、特に要注意だぞ」
「え?なんでですか?」
「結局、俺たちは客だからな。割と無理を業者に対していうわけだ。で、二代目ってのは初代から付き合いがあるってことで、簡単にその無理を聞いてしまうわけだな」
「いいんじゃないですか。無理を聞いてくれるんでしょう?」
「無理がたたり、経営が立ち回らなくなってつぶれるわけだ。指で数えることができる程度だけど、うちと取引してた業者でそういうケースで潰れたところはあるぞ」
「それは向こうの責任だと思うんすけど」
「こちらが客といっても、相互扶助の原則は揺るがないからな。世の中建前で運営されてるわけでもないし」
「めんどいっすね」
「まぁそういう面もあるし、そういう面に助けられることもあるってことさ」
「まだ、業者と直接あれこれやらないんで、よくわかんないっす」
「業者とやり取りするようになれば、わかるさ。そして同時に、事務局は『口を叩く前に電卓を叩け』って思うようにもなるよ」
第一線でお仕事されている方は大変ですね、私はもう毎日が日曜日、今日も午後はスイミングでした。1300ほど泳ぎました、それはそれで疲れましたけど
返信削除おばQさま。
削除>疲れました
羨ましいです。肉体疲労は心地いいですが、産廃業者からのクレームによる精神疲労は生きた心地がしないです(; ;
>無理がたたり、経営が立ち回らなくなってつぶれるわけだ
返信削除産廃業者ではありませんでしたが、そういう会社がありました。当時のトップに「あの会社は格安販売が過ぎてツブれましたが」と申したところ、「そうか。では、その価格でもツブれない業者を探せ」という・・・・
>>その価格でもツブれない業者を探せ
削除鬼ですなw。
もう、部材はネット通販で格安購入して業者に対しては役務できてもらうとかじゃないと無理っぽいっすわw